プラスチックベアリングのメリット・デメリット
ベアリング(軸受)といえば一般的に金属を想像されると思います。特にボールベアリングは金属だけだと多くの方が考えておられると思いますが、金属以外にプラスチックベアリングというものがあります。
ここでは、プラスチックベアリングが金属ベアリングとどう違うのか、メリット・デメリットをご紹介いたします。
プラスチックベアリングのメリット
グリス等潤滑剤が不要
プラスチックベアリングはほとんどのプラスチックに自己潤滑性能を有するため、基本、金属ベアリングのように潤滑は必要ありません。
もちろん潤滑をした場合でも問題なく、むしろ性能が上がりますが、プラスチックベアリングのメリットは第一にこの無潤滑で使用できることが挙げられます。
無潤滑で使えるということは、高温化で潤滑が固まったり蒸発したりといった金属ベアリングでの問題を解決したり、後述する水やお湯、薬液といった液体の介在する環境がかえって、潤滑の役割をしたりといったメリットも出てきます。
錆びない
通常金属ベアリングは、水やお湯、湿気の多いところで使用されると錆が発生します。
錆びることによって金属が腐食したり、潤滑油またはグリスが漏れでたり、あるいは回転不良が起こったりします。
ところが、プラスチックベアリングは、文字通りプラスチックなので、錆は一切発生しません。第二のメリットは、そういった錆による金属ベアリングの不具合の心配が全くないということです。
腐食しない
三番目のメリットとして、薬液がかかる、あるいは薬液に浸かった環境などでの腐食が全くないということです。
基本的にプラスチックは耐薬品性がありますが、薬品の種類によって材質を選定する必要があります。
例えば、「テフロン※1」と世間で呼ばれているPTFEは、一部の特殊な薬品以外は侵されることがほとんどありません。
UHMWPEも非常に耐薬品性が高いプラスチックです。
一方、ポリアミド(通称ナイロン)やPOMなどは薬品に侵される場合がありますが、薬品に対して、適材適所の材質を選べば高性能を発揮します。
※1 テフロンはデュポン社の商品名です
絶縁できる
プラスチックは基本、絶縁体です。※2
通電によって機械の誤作動ひいては故障を引き起こす場合がたまにあります。そういったところでは、プラスチックベアリングの絶縁性能が効果を発揮します。
例えば、軸からベアリングを通してハウジング等に電気がながれて欲しくない場合など、プラスチックベアリングを使用することで完璧に絶縁できます。
ただし、プラスチックは絶縁体であるがゆえ、電気を帯びて静電気を発生させる場合があります。このことは後ほどデメリットで紹介します。
※2 カーボンが充填材として入っているプラスチックは電気を通す場合があるため、絶縁用途で使用する際は注意が必要です
非磁性なので磁力に反応しない
通常のベアリングは金属製なので磁力に反応してしまいますが、プラスチックは非磁性なのでボール材質を非金属にすれば、完全な非磁性ベアリングになります。
MRIなどは磁気を帯びるものが一切NGです。ですが、プラスチックベアリングはMRIにも問題なく使えます。
軽量化できる
プラスチック自身の比重はおおむね金属の比重の1/5です。
ボールなどの重量にもよりますが、それでも金属ベアリングよりはるかに軽量です。
物事がコンパクト、軽量になる風潮に即したベアリングです。
プラスチックベアリングのデメリット
大きな荷重が苦手
プラスチック製のボールベアリングは大きな荷重が苦手です。
プラスチックは金属に比べて、曲げ強度や圧縮強度が低く(簡単にいうと柔らかい)、大きな荷重がかかると凹んだり、変形したりします。
そのため、材質や大きさにもよりますが金属のボールベアリングの数%ほどの許容荷重になります。
一方、すべり軸受は大きな荷重でも耐えうることができますが、それでも金属ベアリングに比べれば、一般的には曲げ強度や圧縮強度が低いです。
ただし、材質や環境、大きさによっては金属ボールベアリングと同等、もしくはそれ以上の負荷を受けられる場合もあります。
高速回転が苦手
プラスチックベアリングの許容回転数は金属ベアリングの数%~数十%になります。
これは、プラスチックの耐熱が限られているからです。
プラスチックベアリングは基本無潤滑で使用するため、その回転時に起こる摺動熱に対してプラスチックが耐えられるかどうかということが問題となります。
高速回転になると、摺動熱が100℃以上(無潤滑)になることがあります。そうするとプラスチックが溶けたり炭化したりします。
したがって「高速回転に弱い」ということになるのです。
摺動熱は摩擦係数(滑りやすさ、この場合回転のしやすさを係数で表したもの)が低ければ摺動熱の発生が低く、高ければ大きくなります。
金属ベアリングは潤滑剤(グリースや油)するので摩擦係数が低くなります。
プラスチックベアリングも潤滑剤(上記に加え水も)があれば許容回転数は上がりますが、それでも金属ベアリングほどの回転数は無理です。
水分や温度で寸法が変わりやすい
プラスチックは吸水膨潤、膨張・収縮があります。
吸水膨潤とは水分を吸収して膨れることです。
材質によっては吸水が無い材質もありますが、湿度の高い天候の場合はそれだけで寸法変化を起こすこともあります。
また、全材質は温度変化により膨張・収縮します。
金属も基本的には温度による膨張・収縮がありますが、プラスチックに比べ1桁以上単位が低いので、通常ではほとんど考慮されません。
当然、温度が高いと膨張し、温度が低いと収縮します。プラスチックは25℃±2℃を基本温度とする場合が多いのですが、PTFEは25℃付近が一番変化のしやすい温度となります。
それ以外に、経時変化といって、時間の経過とともに変化が起こることがあります。
これは、材質により変化の原因が違いますが、例えば熱硬化性プラスチックは、硬化していく過程が非常に長時間続くので、硬化するとともに寸法が変わっていきます。
熱可塑性樹脂の場合は、成形時に加わった力に反発しようする力が時間の経過とともに少しずつ起こり寸法が変化します。
もちろん、時間の経過による吸水や膨張・収縮も経時変化といいます。
このように、プラスチックは非常に変化しやすいので、金属ベアリングのような寸法精度は出せないのです。
以上、樹脂ベアリングのメリット・デメリットを金属ベアリングとくらべながら説明させていただきました。
上記を踏まえ、使用条件と照らし合わせ、最適な材料を選定してください。